取締役のセクハラ 会社の管理責任は?

取締役のセクハラ 会社の管理責任は?

セクハラの仲裁を会社が求められたら?

ある日、文芸系、エンタメ系雑誌を2枚看板とする50人規模の出版社を経営しているA社長が相談に見えた。

A社長「先生、今日は恥を忍んで、相談にきました。実は、セクハラ問題抱えて、今困っているんですよ。」

松江「社長、セクハラはいけませんよ。女性の編集者多いんだから、気をつけなさいって、前も言ったじゃないですか。奥さんに言っちゃうよ!」

A社長「先生、人聞きの悪いこと言わないでください。僕じゃありませんよ、編集長のBですよ。Bが同じ部署で働いている編集者のC子さんを、しつこく食事に誘ったり、ドライブに誘ったり、揚げ句の果てにとうとう夜遅く編集作業で2人っきりのときに、抱きついたりして迫ったりしたらしいんです。」

松江「B編集長は事実を認めているんですか?」

A社長「Bを呼んで話を聞いたんですよ。多少ニュアンスは違うんですが、単なる好意の表れという限度を超えて迫ったりしていたことはどうも事実のように思います。」

松江「大切なのは、職務上の地位を利用していたかどうかですよね。そこはどうなんですか?」

A社長「そこが一番の問題なんですよ。ただ言い寄っていただけなら、行き過ぎはあってもまだ好意と取れるんですが、B編集長、思うようにC子さんが言うことを聞かないと分かると、手のひらを返したように、C子さんに厳しくあたって、C子さんの企画を握りつぶしたり、C子さんの記事をこき下ろして突っ返したり、露骨な嫌がらせを始めたらしいんですよ。それまで猫かわいがりしていたのに、ですよ。結局、同僚の編集者たちも異常に気づいて、C子さんだけでなく、同僚の編集者3人と一緒に、昨日私のところに、『会社が何とかしてくれ』と、直談判に来たんですよ。」

もちろん、好意があればどんなアプローチをかけてもいいわけではないが、それより何より、嫌われたと分かると、職務上の権限を利用して排除しようとするなど、好意が職務上の地位を利用していたと思われても仕方ない。困ったものである。

セクハラ問題放置は会社の責任の放棄

会社は仲裁を求められているようであるが、こうなってくるときちんと対応しないと、会社も無傷では済まない。

男女雇用機会均等法は、その11条で、職場におけるセクハラによって労働者が不利益を受け、職場環境が害されることのないよう、事業者が適切な体制の整備と必要な措置を取ることを義務づけている。これを受けて、厚生労働省は2006年にいわゆる「セクハラ指針」を発表し、企業への指導を強めている。

企業がセクハラの問題を放置することは、従業員への健全な職場環境の維持という責任を放棄することになり、職場モラルの低下を招き、業務遂行能力の悪化を招くばかりか、会社の社会的評価も下げることになる。

さらに近年は、会社がセクハラへの対策を怠ったという、管理責任の懈怠による損害賠償請求や、認められる額も年々高額になっていく傾向がある。高額事案は大学を舞台にした事件が多いが、1000万円前後の賠償命令が事業主体に命じられる案件も出てきている。企業の経済的な損失も計り知れない。

注意すべきセコンドセクハラ

会社としては、双方の事情を聞き取り、まずB編集長がC子さんに謝罪し、30万円の和解金を支払うことで、当事者間の示談は終えた。しかし、問題は今後である。モラル維持のためにも、同じ職場に置いておくわけにはいかないが、部署異動が頻繁にあるわけでもない。A社長の出版社は、文芸系の甲雑誌と、エンタメ系の乙雑誌以外に、旅行系の丙雑誌もあるが、小さい。2人の職場はこの甲雑誌であり、Bが編集長を勤めている。

松江「筋からいきますと、B編集長を別の雑誌に異動させるのがいいのですが。」

A社長「残念ながら、Bは編集長としては有能で、作家先生の間にも顔が広いんですよ。ここだけの話、彼のセクハラ体質も作家先生たちの影響なんじゃないかと思うんです。ああ、C子さんに動いてもらう訳にはいかないんでしょうか?」

松江「C子さんは被害者ですからね。この事件が元で、意に沿わない異動に甘んじなければならないなんてことになったら、それこそセコンドセクハラ(セクハラ問題発生後の企業の対応が新たなセクハラ行為とされるもの)として、大問題です。会社の対応に問題ありとして、損害賠償を請求されかねません。」

悩んでいた矢先、逆にC子さんが、丙雑誌への異動を願い出てきた。思いもかけないことで驚いたが、丙雑誌の編集局が自宅に近いのと女性だけの活気のある職場であることが以前からうらやましかったという。これで、懸案であった将来の手当は解決できた。

セクハラを生まない職場づくりの大切さ

本件を教訓に、A社長の会社では、就業規則にセクハラは絶対に許さないこと、これを犯した場合には懲戒処分の対象となることが明記された。また、社員全員にアンケートを行い、職場のセクハラ行為や、その恐れのある行為などを洗い出した。

その後、専門家も呼んで、そもそもセクハラ行為とはどういうものなのかを含め、徹底的な研修を行い、特に管理職に対しては、被害者の目線でものを考えるという認識を持たせるよう注意した。同時に社内に相談窓口もつくり、社員が1人で悩まないような雰囲気づくりにも苦心し、1歩ずつ、近代化に向けて努力を始めることになった。

松江「社長の会社も、セクハラに対して、随分意識が改革されましたよね。」

A社長「おかげさまで、問題を社員間で共有する雰囲気づくりができました。ところで、一段落ついたから言えますが、C子さんって、かなり女を「ウリ」にしているところがあったので、また行った先で問題起こすんじゃないかと思って、どこに異動させるかで頭が痛かったんですよ。でも、丙雑誌に行ってくれたんでよかったです。一安心です。あそこ女性だけだから。」

松江「?? 女は、一生女ですよ。私だって、シーズンごとにスーツ新調しているし、毎月エステ行ってるもん。やっぱり女はカッコよくないとね!」

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