会社は従業員から未払い残業代を請求されたらどうする?

会社は従業員から未払い残業代を請求されたらどうする?

はじめに

どのような会社であっても、従業員を雇っていれば、未払い残業代を請求される可能性はあります。退職した従業員が退職直後に未払い残業代を請求してきたというケースはよくあります。

そのような事態になったら会社はどうすれば良いでしょうか。

今回は、従業員から会社に対して未払い残業代を請求された場合の対処法について解説します。

残業代とはなにか

そもそも、残業代とは何でしょうか。

労働基準法は、1日または1週間の最長労働時間として、1日8時間、1週48時間労働の原則を定めています。この労働時間を法定労働時間といいます。

他方、会社は、法定労働時間内であれば、契約で自由に従業員が労働義務を負う時間を定めることができます。この時間を所定労働時間といいます。

残業とは、所定労働時間外の労働のことをいいます。そして、残業代とは、残業の対価として支払われる賃金ということになります。

会社は従業員の労働の対価として賃金を支払う義務を負うため、所定労働時間外の労働についてもその分の対価を支払わなければなりません。

また、労働基準法37条により、法定労働時間を超えた労働については、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければならないとされています。

一方、所定労働時間は超えているが、法定時間の範囲内の残業(法内残業)については、労働基準法37条に基づく割増賃金の支払義務は生じませんが、就業規則等に割増賃金を支払う旨の約定がある場合、その規定に従った賃金を支払わなければならないこととされています。

支払い残業代を請求されたら

それでは会社は、従業員や退職した元従業員から未払い残業代を請求されたとき、具体的にどのような対応をすればいいのでしょうか。

未払い残業代を請求される場合は、(元)従業員またはその代理人弁護士から、内容証明郵便で、「未払い残業代が〇円あるので、〇日以内にお支払いください。」という内容の通知が届くというのが一般的です。そのような通知が届いたときは、まずは落ち着いて、次の事項について検証・検討をするようにしましょう。

未払い残業代の算定

まずは請求者たる従業員について、実際どのくらい残業時間があり、それについて残業代が支払われているのか否か、未払分はいくらかなどを会社側できちんと算出しましょう。

従業員自身で残業時間をきっちり記録し、それに基づいて算出した未払い残業代を請求してくる場合もありますが、従業員の手元に残業時間を把握するための資料がなく、従業員の認識する勤務実態のみに基づいて未払い残業代を概算している場合もあります。また、従業員の最大限に有利になるような計算方法で残業代を算出している場合もあります。例えば、既に支払われている残業代を基礎賃金に含んで計算しているような場合です。

そのため、会社としては、まずは会社の手元にある資料(タイムカード、賃金台帳、就業規則、賃金規程など)を基に当該従業員の未払残業代を算出することが必要になります。

方針の検討

未払い残業代の有無ないしその金額がわかったら、どのように解決するのがよいか、検討しましょう。

残業代請求事件の解決方法として主要なものとしては、以下があげられます。

(1)示談交渉

示談交渉は、当事者同士の協議により折り合いをつける方法です。裁判手続きに進むとなると時間も費用も掛かる上、裁判手続きにおいても必ず自分の主張通りになるという保証もありません。そのため、交渉の段階で譲り合うことにより解決するのが適切な場合があります。

当事者同士の交渉で折り合いがつかない場合、多くのケースでは裁判所を利用した解決に進むことになります。裁判所を利用した解決としては、主として労働審判と訴訟があります。

(2)労働審判

労働審判は、裁判官1人と労働審判委員2人で構成される労働審判委員を通して解決に向けた話し合いをし、合意ができない場合には審判がされるという手続きです。原則3回以内の期日で審理が終結されるため、早期解決に資する制度といえますが、審判についていずれか、または双方の当事者に不服がある場合は、通常の訴訟に移行します。

(3)訴訟

訴訟は、当事者双方が自分の主張を裁判官にアピールし、それを踏まえて裁判官が結論を判断するという手続きです。訴訟の場合、付加金や遅延損害金の支払が命じられる場合があります。付加金とは、賃金不払いに対し制裁的に課されるもので、裁判所は未払賃金と同一額の付加金の支払いを命じることができるとされています。

遅延損害金とは、支払いが支払日から遅れたことについて生じる損害賠償金です。

もしも訴訟で従業員の請求が認められた場合、すなわち敗訴した場合は、本来の未払残業代以上を支払うことになりかねません。そのため、訴訟に発展した場合は、自認する額については先に支払っておくなどして付加金や遅延損害金がかさむのを食い止めることも必要になります。

解決手段を頭に入れつつ、勝訴・敗訴の見通しや、かけられる時間やコストについて考えて方針を検討し、必要なときに必要な対応ができるようにしておきましょう。

反論のポイント

未払い残業代の請求に対する会社側がしうる反論としては、主に以下のものがあげられます。

従業員の労働時間・残業代の計算方法が誤っている

従業員が自身の労働時間をきちんと把握していない場合の他に、「休憩時間も仕事をしていた」、「タイムカード打刻後にも残って仕事をしていた」などという理由で、会社側が把握している労働時間を超えた労働時間を主張されることがあります。この場合は、請求される未払い残業代も会社が算出した残業代を上回ることになります。

従業員が労働時間を把握していない場合は、会社側が把握する労働時間及び残業代を、根拠となったタイムカード、就業規則等の資料を開示しつつ主張することになります。

また、従業員の、「休憩時間も仕事していた」など、記録上は労働時間ではないが実質は労働していたという主張に対しては、その時間は会社の指揮命令下になく法律上の労働時間に該当しないなどといった反論をしてく必要があります。

支払済みである(未払いはない)

従業員が請求している残業代について既に支払っている場合は、当然未払い残業代はないということになります。請求額のうち全部ではなく一部が支払い済みであっても、支払い済み部分は当然請求額から控除されるべきですので、いくら支払い済みであるかきちんと主張する必要があります。

*固定残業代制度を採用しているときの注意点*

固定残業代制度、すなわち、一定時間分の残業に対して定額で割増賃金を支払う制度を採用している場合、当該固定残業代が想定している残業については残業代を支払い済みということになります。

しかし、固定残業代の支払いが残業代の支払いとして認められるためには、導入している固定残業代が割増賃金の実質を有していることや、通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とをそれぞれ判別することができること、といった条件を満たしている必要があります。

したがって、固定残業制度を採用するにあたっては、適切な制度設計と運用が重要になります。

なお、固定残業代として割増賃金を支払っていたとしても、固定残業代が想定している残業時間を超える残業については、その分の割増賃金を支払う必要があります。

時効により消滅した

令和2年3月31日以前に支払われるべきだった残業代については、給与支払日の翌日から起算して2年、令和2年4月1日以降に支払われるべきだった残業代については、給与日支払日の翌日から起算して3年で時効により消滅します。

なお、上記の年数が経過すると自動的に消滅するということではありません。時効が完成した旨を主張すること(※これを「時効の援用」といいます)により初めて消滅という効果が生じます。そのため、会社側がきちんと時効が完成した旨を主張する必要があります。

また、時効の完成を主張する前に、時効にかかっている残業代の存在を自認した場合や自認したと思われる行動(支払いなど)をしてしまうと、その後に時効消滅を主張することができなくなってしまいますので、注意が必要です。

勝手に残業していた

会社が残業禁止命令を出していたにもかかわらず、従業員が命令に反して勝手に時間外に仕事をしていたという場合、その仕事は会社の指揮監督下においてされた労働とはいえず、その対価としての残業代も発生しません。

ただし、形式的には残業禁止命令を出しているが会社が従業員の時間外労働を認識しながら業務を中止するよう指示しなかった場合や、会社からの具体的な指示が明らかに所定時間内では終わらないものである場合などは、黙示の残業命令があったと認定されることがあります。

残業禁止命令は徹底すること、及び、残業しなくても済むような制度設計をすることが必要です。

管理監督者

従業員が労働基準法41条に規定されている管理監督者に該当する場合は、残業代は発生しません。

管理監督者に該当するか否かは、「経営者と一体的な地位にある従業員」であるかどうかを基準に判断されます。管理監督者だから残業代は発生しないと反論する場合は、当該従業員の経営への関わりなどについて具体的に主張する必要があります。

早めに弁護士へ相談。制度設計も重要

以上、未払い残業代を請求された場合の対応について簡単に述べました。

実際にどのように残業代を検証するのかということや、どのような方針を立てるのが適切かということは、事案により異なりますが、早い段階で弁護士に相談し、適切な対応を取ることが重要です。それにより、大きな損失を食い止めることも可能になるからです。

また、そもそも未払い残業代が生じないような制度設計をしておくことも重要になります。

これも一度弁護士に相談し、現在の制度設計で問題ないか、チェックしておくことも大事です。

残業代の請求は、かつて自分の仲間だった人間から請求されるものですから、経済的な面はもちろんのこと、精神的にもつらいものがあります。しかし、残業代請求になった場合には、一刻も早く弁護士に相談するなどして、適切な対応をするようにしましょう。

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