設計事務所のための使える契約書・使えない契約書

設計事務所のための使える契約書・使えない契約書

使える契約書・使えない契約書

「私は設計士で、図面を引くのが仕事だ。うちの会社では特にトラブルも起きたこともないから、契約書など適当でかまわない」などと思っていませんか。それ、危険です!

今、東京地裁建築集中部(民事22部)で、設計事務所が巻き込まれる訴訟が急増しています。訴訟にまで発展するトラブルは誰の身に降りかかっても不思議はないのです。

契約書のありがたさは、トラブルが起きた時に初めてわかります。施主と蜜月の間は誰も契約書が云々などと言い出さないのです。しかし、何かが原因でもめてしまった場合には、最後の砦としては契約書が必要です。そのとき、頼れる契約書または使える契約書を持っていますか?

きちんと契約書に記載があれば、自分を守ってくれますし、あいまいな内容が書いてあれば必ず揚げ足をとられてしまいます。

不毛な争いに巻き込まれて、大切な業務の時間を割かれるくらいなら、一度きちんと御社の契約書を見直してみませんか。

ビジネスに使う契約書ってそもそも何をかけばいいの?

そもそも契約書って何を書けばいいの?と、よく聞かれます。「合意書・契約書・覚書・念書・・・。」題名もいろいろあって何がどういう内容なのかが分からないという話も聞きます。

契約書の表題

まず、極端にいえば表題など何でもかまいません。例えば、題名に売買契約書と書いてあっても、賃貸借の内容がきちんと書いてあれば、それは賃貸借契約書です。題名が間違っているだけの話です。それでも、題名が間違っていたからといって、契約書全体が無効になることはありません。要は、何が書いてあるのかが重要で、契約書の中身を決めるのです。

作成名義と作成日

絶対に必要なのは、誰がいつ作ったかです。

文書は作成名義といって、これを作った主体が書かれていないと何の意味もありません。誰が作ったのか分からない文書など、いわゆる無責任な「怪文書」になってしまうだけです。

作成名義が一人であれば、相手に差し入れる為の文書であり、作成名義が複数であれば、当事者間の合意ということになります。誰が意思の表示をしているのかが、大事なのです。

また、文書には作成日がないと、役にたちません。いつ文書が作られたのか、作成日がきちんと書かれているかどうかは大切なポイントです。

何の為に作ったのか

ここが、文書の内容、本丸の部分です。例えば不動産一つを動かす契約でも、買うのか(売買)、貸すのか(賃貸)、あげるのか(贈与)、と違ってくるわけです。

ただ、これらは、法が想定する要件を満たした記載をしないと、何をしたかったのか、目的が分からなくなってしまうので、やりたいことが決まったら専門家に見ていただくことが肝要です。

建築設計・監理業務の契約書に絶対必要な要素

さて、ここでは、特に設計事務所の方のために、設計・監理の契約書の必要記載事項をご説明します。

誰がいつ作ったのかを書くのは当然として、問題はその目的です。これについては、法で厳しく定められています。

なお、延べ床300平米を超えるかどうかで、契約書をつくるべきかどうかに一応取り扱いに差はありますが、作成した方が良いに決まっていますので、契約があるなら、契約書を作る、と思ってください。

法(改正建築士法)で定めた記載事項は次のとおりです。

  1. 対象建築物の表記
  2. 工期
  3. 設計図書の種類
  4. 工事監理のやりかた
  5. 事務所名称、所在地、建築士免許の実態
  6. 建築事務所開設者氏名
  7. 建築士氏名、タイトル
  8. 建築士登録番号
  9. 建築設備士(必要に応じて)
  10. 委託先がある場合はその氏名名称
  11. その他事項
  12. 報酬額、支払時期
  13. 契約の解除に関する事項

基本的にはひな形が出回っていますので、それを利用すればいいのですが、出回っているひな形にも落とし穴がありますので、本当に使える契約書といえるためには、さらに注意が必要です。

役にたたない契約書

報酬がきちんと明示されていない

地裁の建築集中部(民事第22部)で激増しているのは設計費用の未払い、あるいは既に払った報酬を返せ、という問題です。わがままな施主から、「もうお宅にはたのまない、クビだ」と言われたとします。縁を切りたかったのはこっちだ、くらいの状況で、「クビならクビでいいです、働いた分はください」となったとして、時間給や日給ならいいですが、設計・監理の仕事、どこまでできたらいくらと決めていますか?

最近この最も大切な報酬の内容について、支払時期しか書いてない契約書を何度か見ました。たとえば1,000万円の設計・監理の契約だったとして、1:契約締結時400万円、2:建築確認申請時400万円、3:着工時100万円、4:竣工時100万円となっていたとします。設計は終わったが、建築工事の前にトラブルになり、管理業務はしていないとします。自分の中では、設計料800万、工事監理料200万円と思っていますから80:20で問題もなく、これで終わったと思っていたら、設計料と管理料の適正内訳は、70:30だから、80:20として設計料800万円をとっているのは取り過ぎだ、100万返せとなるわけです。

はあ?設計料は確認申請まででちゃんと800万円となっているじゃないかと抗弁すると、いや、この記載は、支払いの「時期」を定めただけであり、どこまでの仕事が終わったらいくらという決め方をしていないではないか、といわれるわけです。

こうなってくると、一番大切な報酬の規定が曖昧だとされて、出来高精算に支障を来してしまい、大きなトラブルを生みます。いつ支払うのかではなく、何に対して、いくらなのかを明記しないといけないのです。

工期がはっきりしていない

次に深刻なのは、工期がいい加減な契約書です。記載の上でも、「一応〇月〇日と取り決めて、後は様子を見て協議する」などという記載をいいます。

これは、そもそも先に述べた法の要求する要素にも違反していますし、何より、どちらのせいで遅れたのか必ず言い合いになって、これまた延々と争いが続くことになります。

あとで調整変更をするにしても、最初に決めておくことは絶対に必要なのです。

頼りになる契約書の哲学

契約書は紙に過ぎませんが、現実を投影していると判断されれば、大きな武器になります。つまり、紙に書いてあることはある、紙に書いていないことはない、と、いいきれれば、紙に従った方の勝ちが単純に決まるからです。

紙にないことをサービスでやらない。紙に書いてある以上は、どんな変更でもきちんと別の紙で変更の合意を結ぶ。こういった小さなことを繰り返すことで契約書は頼れる紙として生きてくるのです。