設計報酬の取り損ないを防ぐ

設計報酬の取り損ないを防ぐ

設計報酬をめぐるトラブルの増加

ここ2~3年、設計士さんからの、報酬をめぐるご相談が、非常に増えてきました。

仕事をきちんとしたのに報酬が全く支払われない、また設計に後から文句を言われ、すでに支払ってもらった報酬を返せ、といわれたり、様々なトラブルが増加しています。

昔は、限られたお客様と顔が見えるお付き合いをすれば良い時代でした。例えば地元でこういう家を建てるならこの人と、こういう家を建てるのはこの人、この工務店に頼むと、こういう設計士さんがいて、という具合に、地縁や同窓、縁故やツテといったつながりであったのが、インターネットの発達によってがらりと変わりました。

どこでも繋がる代わりに、もともとあった人的なネットワークというのが粉々になってしまう傾向にあります。

もちろん、今でもそうした昔ながらの繋がりに根差したお仕事もされている方も多いと思いますが、正直申し上げて、昔からのお付き合いだけで商売をしていくというのは中々難しくなってしまいました。

囲われた池や沼だけで魚を釣るだけではなく、大海原に出て、投網を仕掛けなきゃいけないわけで(まさに「ネット」社会です)、そうすると、引っ張り上げると、とんでもないモンスターが引っかかってくることがあります。

そんなモンスターが思いも寄らないクレームやトラブルをもたらしますが、こうした危険の中でもやっぱり大海原で生きていかなくてはならない、そんな状況の中で、大事な報酬をどうやって回収し、どうやって守っていくか、本稿ではこれを取り上げたいと思います。

報酬の不払いが生じる流れ・パターン

契約締結前のトラブル

口頭で依頼され、打ち合わせや図面作成、その修正等で膨大な時間を取られたのに、結局契約はしないと言い渡され、それまでの報酬が支払ってもらえない。

※平成20年の建築士法改正で、重要事項説明が義務付けられた事から、この問題は逆に減ってきている。

契約締結後の解除

  • 設計内容が要望通りに行っていないとして解除された
  • 建築工事費用が高いと難癖をつけられて解除された
  • 施主が融資を受けられず解除された

設計あるいは工事完了時点のトラブル

  • ・追加設計の費用について、本来の契約に含まれていると拒否された
  • ・工事費用が予想より高額になった、工事が遅れた等として、その責任として設計報酬の減額を請求された

工事完了後のトラブル

  • 「お金が無いから払えない」といわれた(純然たる不払い)
  • 建築の瑕疵が発覚した場合に、瑕疵担保として損害賠償を請求される

以上が大まかなトラブルが発生するパターンですが、どれも設計士の方にとってはごめんこうむりたいものですね。

では、まずどうやったらこんなトラブルを防げるでしょうか。

報酬をめぐるトラブルを防止する方法

契約書の作成

当たり前ですが、本当に重要です。まず、報酬をもらって仕事をする約束(契約)をしたなら、絶対に契約書を作成してください。

勿論、法律上は、口頭でも契約は成立します。しかし、言葉は空中に消えてしまいます。なので、相手が「そんな約束した覚えは無い」といわれたら、どうやって証明しますか。

契約書の作成は必ず行ってください。

設計途中で約束した事・打ち合わせしたことも形にして残す

設計の途中で、いろいろ打ち合わせをしたり追加で依頼を受けたりすることも多いと思います。

しかし、そうした約束した事も絶対に形に残すようにしてください。新しい覚書や合意書等の書面がベストですが、場合によっては以下のようなものでもベターです。

  • メール
  • 議事録(ただし作成後、送ったという証拠も必要)
  • 見積もり書、追加発注書(同様に送ったことの証拠も必要)
  • 録音

とにかく形に残す事です。これは、後にトラブルになった際の証拠を残すため、という意味もあるのですが、施主に対して逐一このような形にして残す事を求めると、あまり変なことを言わなくなり、また形に残っているので、それに書いていないことは言わなくなります。

出来るだけ金額を確定させて合意する

報酬とはつまりお金です。

お金の支払義務を発生させるためには、基本的に「具体的にいくらの額なのか」と確定していることが必要です。

勿論、確定的な金額で合意していないと絶対に支払ってもらえないというわけではないのですが、例えば「工事費用の○○%とする」などという書き方だと、「では工事費用はいくらなのか、どの部分までが工事費用といえるのか」と、解釈をめぐって争いが生じます。

なので、なるべく「報酬は○○○万円(税別)とする」と、争いようが無い確定的な金額で示すのがベストです。

また、「まだ具体的な設計内容が確定していないので、金額も確定できない」という問題があるかもしれませんが、それでも、いったん具体的な確定金額で合意し、後から額の変更の必要が出てきたらその都度新しい確定額で合意しなおす等をした方がいいです。

報酬のトラブルが発生した後の対応

実際に施主さんから報酬を支払わないといわれたり、着手金や中間金をもらっていた場合は、「むしろ払いすぎだから返せ」と言われたりするトラブルが生じた場合、どのように対処すればいいでしょうか。

不払いの理由を明確にしてもらう

  1. 単にお金がなくて支払わない人
  2. 出来上がった設計が気に入らなくて支払わない人
  3. 報酬が高すぎると思って納得行かない人
  4. 設計途中で人間関係が悪化して感情的な理由で払わない人

様々ですが、まずはどのような理由で支払わないのか、明確化させることです。

もちろん、本当のことを話すとは限りませんが、まずはいかなる理由で支払わないのか、明確化させることが解決の第一歩です。

報酬の根拠を示す

報酬を支払わない人の多くが上記2や3ですが、つまるところ、その原因は、「なぜその額の報酬となるのか」ということが理解できていないことによります。

なので、「報酬をめぐるトラブルを防止する方法」で示したような、契約書、メールでのやり取り、議事録等の資料を提示して、どういった契約、約束内容だったか、詳しく丁寧に説明する事が必要です。

内容証明を送る

それでも支払わない人に対しては、まず内容証明で、請求する意思表示を示しましょう。

支払わない人に対してこれ以上請求しても無駄かと思われるかもしれませんが、設計の報酬の債権は、5年で時効消滅してしまうので、間近に迫っているのであれば、とりあえず内容証明郵便を送付して相手に送達すれば、そこから6ヶ月以内に正式な訴訟を提起すれば時効消滅は免れます。

また、内容証明であれば実際の内容が公に残りますので、「そんな書面受け取っていない」という言い訳を防ぐことにもなります。

訴訟を提起

これはいわば最後の手段です。

実際に民事訴訟を提起し、勝訴判決をもらって確定すれば、相手の財産に強制執行が出来ます。これは最後かつ究極の手段です。

しかし、かなり大変な裁判手続になりますので、弁護士に依頼するなどして専門家の意見や助力を得たほうが良いでしょう。

最後に

いかがでしたでしょうか。

報酬の取り損ないを防ぐというテーマでしたが、結局は「約束したことはきちんと形に残す」ことに尽きるのではないでしょうか。

報酬トラブルに限りませんが、結局人間同士のトラブルと言うのは、過去の事実が明確に形に残っていないがゆえに、お互いの認識がズれていることから生じるのが多いと感じます。

では、いつ、どのようなタイミングで、どのような形にして残すか、それは場合によりけり、千差万別です。

ですので、もしそういったことでお悩みであれば、ぜひとも弁護士にご相談ください。

弁護士は、裁判の仕事だけではなく、普段の業務についても、法律的な観点から有益なアドバイスが出来る場合も多いので、ぜひともご活用いただければと思います。